今回は、橘玲著「臆病者のための億万長者入門」(文春新書)を読んだレビューをします。
「億万長者入門」というタイトルから想像される浮ついた内容ではなく、真面目に金融リテラシーについて解説した書籍です。
金融業界関係者ではない作家が書いているので、紋切り型の金融入門にはなっていません。むしろ、そのことによって、普通の金融入門よりも価値が高いように思います。作者独自の視点で語られているので、項目によっては、ものすごく記述に熱が入っており、読後に強い印象が残ります。
入門的な本を10冊くらい読んだながらまだまだ初心者の私だと、説明がわからない・納得のいかない部分もあり、その場では理解できたつもりで読み進めたけれど読後に印象が残らなかった部分もありました。けれども、ほかの入門書でも読んで知ってはいた事項がもっと掘り下げて理解できたり、知っていたけれども深くは納得できていなかったことがスッキリ腑に落ちたりする部分もありました。私にとって一番の収穫は、意外にも不動産投資に関して、目から鱗というくらいに勉強になったことでした。
私がいうのもおこがましいかもしれませんが、少なくとも金融知識が初級~中級くらいの読者なら収穫が多く読めると思います。
文章と喩えがとても巧い作家ですので、強い印象を受けながら、楽しみながら勉強できることは間違いありません。
次に読む投資本を探すとき、私は人のブログに乗っているレビューを読んで参考にします。
本書はそうしたサイトで結構レビューされており、難易度もあまり高くなく読める良書だという印象を受けたので、購入しました。実際、その通りだったと思います。
2014年第1刷、2020年第10刷とのことです。全部で何部くらいかというのはわからないけれど、10刷まで出たということは、それなりに広く、しかも最近でも読まれているということかと思います。
私は読み始めるまでは、いかにハイリターンの投資を成功させ、資産何億円かの富豪になる方法を教えてくれる本だと期待してました。でもこの本は、私たち一般人が一攫千金で大金持ちになる方法を教えてくれる本ではないです。
ここで言う億万長者というのは、金融資産1億円持っている人口が日本で270万人(2%も!!)いるということであり、それは個人の努力で実現できるということです。ただ、1億という数字に作者がこだわっているわけでなさそうです。
むしろ、長い期間にわたって収入を増やすこと+資産を運用することが十分な資産を蓄えるために重要であるということを説いている本です。(長い期間というのが、中年真っただ中の私たちにはいつも、とても厳しい言葉です。若いころは資産とか老後とか、ほとんど意識してなかった...。)
まじめに堅実に資産を増やしていくためにどうすればよいか、そのためにも金融のプロたちが流布している、間違った金融の常識に騙されてはいけないというのが本書の主眼といえます。
本書の章立ては以下の通りです。
第1章 資産運用を始める前に知っておきたい大切なこと
第2章 「金融の常識」にダマされないために
第3章 臆病者のための株式投資法
第4章 為替の不思議を理解する
第5章 「マイホーム」という不動産投資
第6章 アベノミクスと日本の未来
終章 ゆっくり考えることのできるひとだけが資産運用に成功する
第1章で、前節で述べたように、1億円以上資産を持つ億万長者が日本の人口の2%ほどを占めること、人的と金融資本を賢く運用する必要性が説かれます。
第2章以降で扱われるのは、金融リテラシー、株、為替、マイホーム、今後の日本人がどのように資産運用を考えていくべきかという、金融本なら扱うべき内容ですが、作者の切り口は非常にユニークです。
私には金融リテラシー(第2章)と不動産(第5章)に関する考察がとてもおもしろかったし、いままでにないくらい勉強になりました。印象深かった部分について、面白みを以下で紹介したいと思います。
裏表紙のプロフィールには「作家」とあります。そこで紹介されている著書には、金融小説と金融解説書ばかりなので、金融作家ということなのでしょう。
「はじめに」では、「私は一介の文筆家で業界とはなんのかかわりもないから好き勝手なことが書けるのだ」と言っており、本書では、業界の暗黙の了解で「それはいわないでおくことにしよう」と決めていることを進んで扱うことを宣言しています。
専門の作家ならではのことで、文章が達者です。喩えもわかりやすくて、面白く読めます。
本書の「はじめに」は、「将棋のプロはいるけど宝くじのプロがいないのはなぜか?」という問いからはじまります。そして、将棋の素人が羽生善治に勝つことはぜったいにあり得ない、なのに株式投資ではそういうことが実際に起きている、と続きます。
つかみの強さが少しでも伝わるでしょうか。
もし興味を持たれたようなら、まずは、4ページ足らずですが「はじめに」を読んでみてほしいです。私は「はじめに」を、ものすごくワクワクしながら読み終えました。
本書では、宝くじが喩えというか、投資を考える上での比較対象として多く取り上げられます。
宝くじがよほど当たらないことは誰でも知っています。しかも、そのリターンの期待値の低さは、もっとイメージが悪い他のギャンブルと比べてもひどいとのこと。われわれ日本人はそれを1等賞の金額の多さと胴元が国であることで、よい物のように思わされているのです。
その宝くじと比べても、保険やその他の金融商品でもっとリターン期待値が悪い商品はごろごろしているようです。それでも、間違った「金融の常識」が広く流布されているので、そうした商品を買い続けている人が多い。
本の中では、宝くじや金融商品のリターンの議論は具体的な数字を示して議論されるので、とても説得力がありました。
私がこれまで読んだ何冊かの投資の入門書でも、ほとんどの本に、銀行窓口で投資の相談をしてはいけない、オンライン証券に口座を作りなさいとの解説がありました。
名の通った大手銀行であっても、割に合わない手数料を取るのが常で、投資家が損するように商品が作ってあるからです。この事情は本書にも出てきたと思います。
(わが家でも大手信用金庫で投資口座を作ったことがあります。インデックス投資信託の買い付け手数料が、オンライン証券なら無料なのに、信用金庫では2%です。100万円買い付けたら2万円も損が出てしまう建付けで、もっと複雑な金融商品の場合に何をされるかと思うと、怖くなりました。)
金融セールスマンは、投資家が損をするように設計された金融商品を、「絶対に儲かる」と言って売って歩くわけです。作者はそんなセールスマンを「オオカミ」と喩えています。もとは善良な人間だったはずの人が、金融セールスマンになる、つまり「ヤギがオオカミに変わる」ときの彼らの思考や事情を解説しています。
ここまで辛辣な内容は、ほかの本では見たことがありません。警鐘として、とても印象に残ります。
この本を手に取ったとき、マイホームの議論まで載っているとは思ってませんでした。読んでみた後では、この不動産に関する部分が一番勉強になりました。
「持ち家 vs 賃貸」で迷っている方や、マイホームを買わない決定はしたけど未練が残っている人は、とても説得力がある内容なので、ぜひご一読をおすすめします。
不動産マーケットはインサイダーマーケットなのだそうです。
不動産屋が私に提示する値段が適正かどうかは、素人の私には調べようがない。そして、不動産屋同士で、同じ物件が比べ物にならないくらい安い値段で売買されることが、普通にある業界なのだそうです。
だから不動産は、誰でも現在の値段が知れる株などとは、ぜんぜん違う種類の金融商品だということです。
また、他所でも聞いたことはありますが、「インサイダーマーケットには手を出すな」とのこと。
わが家では、マイホームは買わないことで、とっくに結論が着いています。
ただ、マイホームはローンを払い終われば手元に残る、と言われるたびに、本当に正しい決断だったのかなと、最近まで悩んでました。本書を読んで、やはりマイホームを買わないことは正しい判断だったと、強く納得できました。
橘玲著「臆病者のための億万長者入門」を読後レビューしました。
前提として、私は入門書10冊ほどを読んだことがある投資初心者です。
私自身は、予想外に扱われていたマイホーム購入に関する議論が、大変勉強になりました。目から鱗というくらいに新しい理解が得られました。「持ち家 vs 賃貸」で迷っている方や、買わない決定はしたけど未練が残っている人は、とても説得力がある内容なので、ぜひご一読をおすすめします。
「臆病者のための億万長者入門」で、著者が名著として何度も引用しているベストセラー「となりの億万長者入門」もレビューしました。
こちらも経済的自立を目指すためにとてもヒントになる本です。
ぜひ、あわせて参考にしてください。