高配当株を、配当金を受け取る権利が発生する瞬間だけ保有して、すぐに売ったら儲かるのかなぁ?
配当権利日前に高配当株を購入し権利発生後すぐに売る「配当金目当てトレード」をする人は実際にいると聞きます。
そういう人たちが一定数いたら、配当権利日の前に株価が高騰し、権利発生翌日に下落するはず。
「配当金目当てトレード」はそれでも儲かるのか?
それとも、そうしたトレード起因の下落のせいでむしろ損がでるのか?
本記事では、2022年3月の配当権利日前の値動きデータを調査しながら、「配当金目当てトレード」が儲かるのかどうか、検証します。
日本企業の中には、年に2回、株主に配当金を出す会社が多くあります。
多くの会社が、9月と3月の末日に配当権利確定日を設定しています。
3月末日の株主名簿に名前が載れば、3月期の配当権利が確定し、手続きが済んだ時点で銀行口座に配当金を振り込んでもらえます。
この仕組みは9月配当も全く同じなので、ここでは3月配当に絞って、議論を進めます。
では、3月配当をもらうためには、具体的には3月何日に株を保持していればよいのでしょう?
答えは、権利確定日の2営業日前にあたる「権利付き最終売買日」の取引終了時に株を保持していれば、配当金がもらえます。
29~31日がすべて平日の場合で3月31日が権利確定日なら、3月29日のうちに株を買っておきなさいということになります。
3/29 | 3/30 | 3/31 |
権利付最終売買日 | 権利落ち日 | 権利確定日 |
取引終了時に株を持っているべき | この日に買ったのではもう遅い |
権利落ち日(いまの例では3月30日)にはもう売ってしまってよいので、最短の「配当目当てトレード」は、
になります。
本記事では、3月29日取引終了直前に購入し、まるまる1日保持した場合(3月30日の取引開始直後でなく取引終了直前の売り)について、議論します。
2022年3月30日の夜(取引終了後)に、時価総額100億円以上の全上場企業のうち予想配当利回りトップ30社が次の表です。
データはSBI証券のスクリーニング機能を利用して抽出しました。
表自体は、ちゃんとまじめに解析している証拠のつもりで載せただけなので、じっくり見てもらうつもりはありません。
唯一、大事なところは、一番右に「1株配当+前日比」という数字を計算したことです。
「前日比」は、権利付最終売買日(3月29日)終値から権利落ち日(3月30日)終値への株価変化です。配当金をもらうために1日だけ株を保持した場合の株価変動です。
つまり「1株配当+前日比」は、配当金をもらうために1日だけ1株を保持した時に、配当と株価変動を合わせて何円儲かったかを計算したわけです。
この数字がマイナスなら、株価の下落が配当金を上回ったため、全体として損な取引で終わったことを意味します。
コード | 銘柄名 | 時価総額(百万円) | 3/30終値 | 前日比 | 予想配当利回り(%) | 株価騰落 (円) | 直近配当基準日 | 予想1株配当 | 1株配当+前日比 |
9101 | 日本郵船 | 1,727,760 | 10160 | -950 | 11.49 | -950 | 2022/3/31 | 1,000 | 50 |
9104 | 商船三井 | 395,059 | 3275 | -170 | 10.46 | -170 | 2022/3/31 | 750 | 580 |
5411 | ジェイエフイーHLDG | 1,062,364 | 1729 | -114 | 7.98 | -114 | 2022/3/31 | 80 | -34 |
2914 | 日本たばこ産業 | 4,223,000 | 2111.5 | 12.5 | 6.74 | 12.5 | 2022/6/30 | ー | ー |
8616 | 東海東京フィナンシャルHLDG | 105,275 | 404 | -23 | 6.44 | -23 | 2022/3/31 | 14 | -9 |
5401 | 日本製鉄 | 2,051,744 | 2159 | -117.5 | 6.43 | -117.5 | 2022/3/31 | 70 | -48 |
9810 | 日鉄物産 | 170,908 | 5290 | -340 | 6.05 | -340 | 2022/3/31 | 160 | -180 |
9434 | ソフトバンク | 6,912,637 | 1444 | -52.5 | 5.96 | -52.5 | 2022/3/31 | 43 | -10 |
1820 | 西松建設 | 207,356 | 3730 | -145 | 5.92 | -145 | 2022/3/31 | 131 | -14 |
9880 | イノテック | 19,139 | 1397 | -42 | 5.87 | -42 | 2022/3/31 | 35 | -7 |
1720 | 東急建設 | 72,918 | 683 | -26 | 5.86 | -26 | 2022/3/31 | 20 | -6 |
7198 | アルヒ | 35,720 | 990 | -37 | 5.81 | -37 | 2022/3/31 | 30 | -7 |
4902 | コニカミノルタ | 261,385 | 520 | -13 | 5.7 | -13 | 2022/3/31 | 15 | 2 |
2121 | ミクシィ | 176,176 | 2252 | -27 | 5.7 | -27 | 2022/3/31 | 55 | 28 |
9107 | 川崎汽船 | 706,415 | 7520 | -80 | 5.65 | -80 | 2022/3/31 | 300 | 220 |
5208 | 有沢製作所 | 32,292 | 961 | -53 | 5.52 | -53 | 2022/3/31 | 48 | -5 |
3284 | フージャースHLDG | 24,217 | 656 | -12 | 5.49 | -12 | 2022/3/31 | 19 | 7 |
4246 | ダイキョーニシカワ | 40,421 | 547 | -25 | 5.48 | -25 | 2022/3/31 | 15 | -10 |
6178 | 日本郵政 | 3,450,239 | 915.7 | -58.2 | 5.46 | -58.2 | 2022/3/31 | 50 | -8 |
8304 | あおぞら銀行 | 310,865 | 2628 | -62 | 5.44 | -62 | 2022/3/31 | 81 | 19 |
8316 | 三井住友FG | 5,511,192 | 4010 | -121 | 5.24 | -121 | 2022/3/31 | 105 | -16 |
4502 | 武田薬品工業 | 5,526,810 | 3493 | -112 | 5.15 | -112 | 2022/3/31 | 90 | -22 |
9506 | 東北電力 | 372,636 | 741 | -17 | 5.06 | -17 | 2022/3/31 | 15 | -2 |
8008 | ヨンドシーHLDG | 40,220 | 1653 | 2 | 5.02 | 2 | 2022/2/28 | ー | ー |
8411 | みずほFG | 4,067,878 | 1602 | -48.5 | 4.99 | -48.5 | 2022/3/31 | 40 | -9 |
9422 | コネクシオ | 62,767 | 1403 | -57 | 4.99 | -57 | 2022/3/31 | 35 | -22 |
9504 | 中国電力 | 336,437 | 869 | -23 | 4.99 | -23 | 2022/3/31 | 15 | -8 |
2768 | 双日 | 511,112 | 2042 | -47 | 4.97 | -47 | 2022/3/31 | 58 | 11 |
7246 | プレス工業 | 43,780 | 384 | -8 | 4.95 | -8 | 2022/3/31 | 9.5 | 2 |
5703 | 日本軽金属HLDG | 108,179 | 1745 | -43 | 4.94 | -43 | 2022/3/31 | 45 | 2 |
表の30社のうち、日本たばこ産業とヨンドシーHLDGの2社が3月末配当でないため、以下のシミュレーションでは残りの28社のみで考えます。
上の表で一か所だけ私が理解できていないのが、商船三井の配当率です。
商船三井が2022年1月31日に発表した「2022 年3月期業績予想、及び配当予想の修正に関するお知らせ」によると、第2四半期(2021年6月末)に300円の配当があったあとで、3月期配当の予想額は750円となっています。上の表の予想1株配当は、この750円と一致します。
現在の株価=3275円、年間の配当(予)=300+750=1050円ですから、
配当利回り=1050÷3275(×100%) =32.06%
となってしまって、表の配当利回り(予)=10.46%と一致しない謎が生じてしまいました。
私がどこを勘違いしているのかご存じのかた、コメント欄でお教えいただけると大変助かります。よろしくお願いします。
本節では、高配当28社の「配当目当てトレード」の利益についてグラフ化して整理します。
28社について「1株配当+前日比」を株価で割った結果の度数分布が次のグラフです。
1日間凍結した出資金に対して、いくら儲かったかのリターン(%)に相当します。
1番右(5~)のビンに1社あるのは、商船三井です。
28社のリターンの平均値とRMSは以下の通り。
リターンの平均は、ゼロと誤差範囲で一致しており、「配当目当てトレード」で儲けは有意には期待できなさそうです。
% | |
平均 | 0.18 ±0.68 |
RMS | 3.59 ±0.48 |
何も考えずに「配当目当てトレード」をしても、たぶん儲からなそうというのが、前節の結論です。
同じ解析なので同じ結論しかでないのかもしれませんが、今度は「リターン」が目当てだった配当金の何%だったかも見てみましょう。
次のグラフは、「1株配当+前日比」を配当金(予)で割った結果の度数分布です。
28社について「配当目当てトレード」をしたとして、1社も配当金額まるまる儲かることはなかったという結果です。表を見返すと、前日比は28社すべてマイナスでした。
配当金の60~80%の儲けが出る場合もあれば、-80~-60%の損失が出ることもあったということで、ただ配当金よりも大きな損失が出る場合は28社中1社もなかったという結論でもあります。
リターン/配当金の比についても、平均値を計算してみると、以下のようになりました。
やはり儲かることは有意には期待できないという結果は変わりません。
(%) | |
平均 | -12.8±8.1 |
RMS | 42.6±5.7 |
株の配当金は、権利付最終売買日(権利確定日の2日前)の取引終了時に保有している株主に対して権利が発生します。
本記事では、「配当金目当てトレード」が儲かるのかどうかをデータを用いて検討しました。
結論は、次の通り。
たいへん残念ですが、市場は効率的というのは、ここでも当てはまるのですね。
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