ピーター・リンチは、伝説的な成績を上げたファンド・マネージャーです。
その投資のプロ中のプロが、アマチュア投資家向けに書いた株式投資の指南本が、「株で勝つ」です。
リンチは、株価が10倍に高騰する成長株に関して、現在では広く使われている「テンバガー」という造語を作った投資家です。
本書でも、成長株投資について多くの記述をしています。
そして本書は、バリュー投資の教科書になっています。
ユーモアを交えた平易な文章が、高度な内容を、わかりやすく楽しみながら読める優れた教科書にしています。
本記事では、この「株で勝つ」をレビューします。
「章ごとの要約メモ」節では、「株で勝つ」の章ごとの要約もします。
ここで紹介する版は、「ピーター・リンチの株で勝つ―アマの知識でプロを出し抜け」[新版]です。
多分、現在の日本では、この「新版」が流通している版のほとんどだと思います。
「新版」は、英語ではMillenium Editionの表記ですから、2000年の改訂のことです。
「株で勝つ」はもともと、1990年に初版が出ました。
「新版」は、巻頭にピーター・リンチによる「ミレニアム版への序章」が掲載されており、そこで1990年代の出来事に解説を加えています。
本編では、1990年以降の出来事については特に触れていません。
ミレニアム改訂はあまり大掛かりなものでなかった様子です。
巻末の出版情報は、以下のようになっています。
1回に何冊印刷するのか知りませんが、平均して2年に3刷も刷っているというのは、日本に限っても相当に広く読まれてきた書物と言えます。
著者ピーター・リンチは、投資信託運用会社フィデリティ・インヴェストメンツのファンド・マネージャーだった人です。
1977年から1990年まで、「マゼラン・ファンド」を運営し、平均年率29.2%のリターンを達成した伝説の投資家です。
1944年生まれとのことなので、2021年の現在で77歳でしょうか。
投資の神様ウォーレン・バフェットは1930年生まれですから、バフェットよりずいぶん若いです。
ピーターリンチが「伝説」と呼ばれているのは、この29.2%が物凄いことだからです。
よく、年率20%でも、相当凄いことだと聞きます。
年率29.2%で13年運営すると、財産が28倍になります。
いまの100万円が、13年置いておいたら2,800万円になるとしたら、夢のような話です。
これがどのくらい凄いことか、調べてみましょう。
該当の時期のダウ・ジョーンズ工業指数のチャートを次に示します。
このチャートから、1977年初頭と1990年末のダウ指数を読み取ると、それぞれ1004、2633です。
13年でダウ指数は2.62倍になりました。
平均年成長率を計算すれば、7.70%です。
これらの数字を、マゼラン・ファンドのリターンと比べたのが次の表です。
Dow Jones Index | マゼラン・ファンド | |
1977年初 | 1004 | |
1990年末 | 2633 | |
13年の成長(倍) | 2.62 | 27.95 |
平均成長率(年率)% | 7.70 | 29.2 |
13年間、インデックス投資をして2.6倍にしかならないところを、ピーター・リンチに預ければ28倍になったということだと思うと、マゼラン・ファンド、復活してほしいです。
というか、投資本とか書く代わりに、現在のマゼラン・ファンドを一言教えてくれればいいのになぁ、と思ったりします…。
別の記事で、ベンジャミン・グレアム「賢明なる投資家」にバフェットが書いた補遺「グレアム・トッド村のスーパー投資家たち」を紹介しました。
そこでは、グレアムの門下生たちが、軒並み20%を超える驚異の年率リターンを記録していたことが紹介されています。
その中に、ウォーレン・バフェット自身が1957~1969年の間、運用したバフェット・パートナーシップの運用成績が紹介されています。
そこでのバフェットの平均年間リターンは29.5%です。
ピーター・リンチの29.2%は、バフェットの運用成績並みであり、やはり凄い投資家だとわかります。
バフェット・パートナーシップの時期のダウ指数の推移は以下のチャートのとおりです。
バフェット・パートナーシップの成績を、ダウの成長と比較したのが以下の表です。
Dow Jones Index | バフェット・パートナーシップ | |
1957年初 | 496 | |
1969年末 | 800 | |
12年の成長(倍) | 1.61 | 22.25 |
平均成長率(年率)% | 3.75 | 29.5 |
マゼラン・ファンドの時代は、ダウ平均の平均年間成長率は7.70%でした。
バフェット・パートナーシップの時期の3.75%と比べると、ピーター・リンチが活躍した時期のほうが相場の成長性は高かったと言えます。
そう思うと、やっぱりバフェットの成績に軍配はあがるのかもしれません。
どっちも雲を突き抜けてはるか成層圏の上の成績なのだろうから、私にはよく理解できませんが...。
本書には他の投資家は1度しか言及されませんが、ウォーレン・バフェットだけは何度か話題に上ります。
ピーター・リンチは、本書の第2章でウォーレン・バフェットのことを、以下のように評しています。
そしてウォーレン・バフェットも偉大な投資家である。彼の投資方法は私と似ているが、彼の場合は、気に入ったら会社をまるごと買ってしまう。
ピーター・リンチ「株で勝つ」
バフェット・パートナーシップの後、バフェットがバークシャー・ハサウェイの会長になり、巨大企業に育て上げ、投資家と経営者の手腕を発揮し続けていることは、有名なことです。
一言で投資といっても、いろいろな種類の投資法があります。
同時に、いろいろな金融商品が投資対象としてあり得ます。
だから、投資本と言っても、いろいろなジャンルのいろいろな手法に関する書籍が出版されています。
ピーター・リンチの「株で勝つ」は、株投資に特化した書籍です。
債権投資よりも株投資の方が優れていると考える根拠が、第3章で説明されます。
1990年ごろのアメリカの事情の下では不動産投資が有利だったことにも第4章で言及しています。
それ以外の18章は、株の記述のみです。
本書の副題は、「アマの知識でプロを出し抜け」です。
日常の買い物や、職業上の情報から、ウォール街の機関投資家が気が付かない優れた投資対象を見つけることが可能という主張です。
機関投資家よりも個人投資家の方が有利な点を繰り返し列挙してくれるので、夢があるし、モチベーションが上がります。
ただし、株を購入する前には、じっくり調査をしてからでないと買ってはいけないという注意も繰り返し書いてあります。
「テンバガー」という造語を作った著者だけあって、成長株や業績回復株について熱っぽく語る場面が多くあります。
一方で、それほど高い成長性がない優良株や、周期的に騰落を繰り返す市況関連株の投資の考え方も解説されます。
そして、著者が自分はバリュー投資家だと宣言する通り、ファンダメンタルズをしっかり調べて割安の株価で買うことを常に強調するバリュー投資の指南書です。
楽天ブックスやアマゾンの口コミでは、優れた投資本との良い評判が多いです。
もっと早く知って読みたかったという意見がたくさん見受けられます。
退屈とか、成功談をだらだら書いているという評も一定数あります。
一般論ばかりでなく、著者の体験を全面に押し出しながら説明する項目が多く、私にはそれが読みやすさにつながっていました。
ただ、読む人によっては、そういうのが鼻につくから嫌な方もいるかもしれませんね。
私が本書を手に取った一番の理由は、以前、別の記事で紹介した西野武彦著「世界で最も読まれている株の名著10選 」で紹介されていたからです。
この本は、著名投資家10人とその著書を紹介している本です。
読んでいて面白い本し、次に読む投資本選びにも大変参考になるので、おすすめです。
この「株の名著10選」の32~33ページには、西野氏が作った何通りかの書籍リストとランキングが載っています。
これらリストの中で、ピーター・リンチ「株で勝つ」は、
にリストアップされており、
ということでした。
本格的な投資本の中では、わかりやすく書かれている本だと思います。
たぶん、金融リテラシーや投資の入門書を読んだことがある方なら、あまり難解に思わずに読み進められると思います。
私自身、金融リテラシーや投資の入門書―銀行の窓口で投資の相談をしては危ないとか、ドルコスト平均法でインデックス積立投資をしなさいと言った内容の書物―を5~10冊くらい(どこまでをそのジャンルとするか、はっきりしないので)読んだ以外は、本格的投資本は3冊目ですので、まだまだ初心者です。
ですが、だいぶスラスラ読めましたし、論点もわかりやすかったです。
前に読んだ本格投資本2冊は以下で、それぞれレビュー記事を書いたので合わせて読んでいただけると嬉しいです。
これら2冊と比較しても、「株で勝つ」ははるかに読みやすく、わかりやすいです。
「賢明なる投資家」はバリュー投資のバイブル的な名著です。
勉強し応えがある一方で、最終改訂でも1970年ごろだった書物であり、古くなってしまっているのも確か。
例として出て来る企業は、50年経った今ではすでに無くなったり名前が変わったりしている会社が多いです。
本来理解を助けるための例題が却って理解を難しくする結果になってしまっており、読み進めるのが辛い書物になっているのは否めません。
その点、「株で勝つ」は、1980年代に書かれた書物です。
ダンキンドーナツ、スバル、ウォルマート、デル・コンピュータ、タコ・ベル、...。例に出て来る企業が馴染みのある名前が多いのが、非常に読みやすく感じます。
「賢明なる投資家」では、債権に関する記述が、私には全然わからなかったです。
ウォーレン・バフェットも、自分が亡きあとは資産の90%(95%⁉)をS&P500連動ETFで運用しなさいと言っている現在でも、債券が必要な投資商品なのか悩みながら読み進めていました。
その点、「株で勝つ」は株に特化した投資本ですから、論点もわかりやすかったです。
「投資で一番大切な20の教え」は私は初めて読んだ本格投資本でした。
こちらも、バリュー投資の本で、ウォーレン・バフェットが株主総会で配ったと言われるほど評価した本です。
「投資で一番大切な20の教え」を読んだ当時と比べると「株で勝つ」を読んだ今の方が私の理解力も進んでいるでしょうから、読後の印象をそのまま比較するのは公平でないかもしれません。
「投資で一番大切な20の教え」が書かれたは2000年代ですから、書かれた時代の近さという意味では、「株で勝つ」の方が古く、時間的に遠いです。
「投資で一番大切な20の教え」はバリュー投資の考え方のエッセンスを凝縮したような読み応えのある本です。
わくわくしながら読んだ部分も多かったものの、例が少なく概念的で、難解だった印象は強いです。
それに比べると、「株で勝つ」は、例が多いのが分かりやすく、それが圧倒的に難易度を下げているのは間違いありません。
ピーター・リンチの文章は、ユーモアが溢れ、そのため読んでいて飽きないです。
本来難しい顔をしながら説明する投資の講義を、随所にジョークを交えながらリラックスして聞かせてくれる感じです。
自分自身の経験を交えながら説明する文章のスタイルも、著者の人柄を感じさせ、魅力があります。
著者自身の投資体験を例に話を進める場面が多いですが、失敗談も臆せず紹介しているところが、印象に残りました。
伝説の投資家でも、こういう失敗をするんだと思って読むことができます。
もっとも、自信がある著者だからこそ、赤裸々に失敗談を語れるのでしょう。
逆に、チャンスは2度は逃がさないものだ、などと成功事例を自信満々に語る部分もあります。
伝説の投資家が言っていることだと思うと私は何とも感じなかったのですが、こういうのが鼻につく人もいるのかもしれませんね。
アマゾンなどで、自分の話ばかりだらだら書いている、とのレビューを書いている人が一定数いるのは、そういう感想なのかもしれません。
以下では、私が読みながら取ったメモを紹介します。
かなり主観的なものですが、要約に近いもののつもりです。
特に面白かったところや、私にとって勉強になった部分もメモしています。
そういうところは、なるべく括弧()で括っていますが、主観が入った要約といったところです。
どんな本かと思っている方に参考になればうれしいです。
それと、第2部と第3部の最後に、それぞれのまとめが箇条書きになっています。
もし本屋で立ち読みしながら購入を検討できるなら、これらを見ると、どういう内容の投資本かよくイメージできると思います。
初心者でも読みやすい本格的な株投資本の名著です。
テンバガーを当てたい人、バリュー投資を目指す人、脱投資初心者したい人には、ぜひおすすめの一冊です‼
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「ピーター・リンチの株で勝つ」を含め、バリュー投資の名著と名高い指南書4冊を、比較紹介した記事を書きました。
あわせて参考にしていただければ幸いです。
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