過去データを解析し、S&P500の年ごとのリターンを分析しました。
S&P500指数の設定以来の長期的なパフォーマンスも整理し考察します。
本記事では、S&P500指数が設定された1957年以来のパフォーマンスを分析し、紹介します。
本節では、本題に入る前にS&P500指数とはどういうものか、なぜこの指数のパフォーマンスを理解することが大切なのかを、ごく簡単に紹介します。
S&P500は、米国を代表する大企業500社の株価平均です。
日本でも日経平均株価とTOPIXが有名で、日本経済の指標として参考にされています。
同じように、アメリカの株価平均で代表的なのが、ダウ・ジョーンズ指数とS&P500です。
日経平均とダウ・ジョーンズは歴史が長いため、知名度は高い。
一方で、TOPIXとS&P500は企業規模(時価総額)で重みを付けた加重平均なので、よりよく経済状況を反映する指数と考えられています。
1970年代に、こうした株価指数に価格が連動する金融商品、インデックスファンドが発明されました。S&P500に連動するファンド(投資信託)を購入すれば、全米を代表する500社に自動的に分散投資でき、アメリカ経済の成長とともに資産を増やすことが可能になったのです。
S&P500だけでなく、ダウ指数、日経平均、TOPIX、その他の各国の株価指数に連動するインデックスファンドも売買されています。
世界1の経済大国として米国は、もっとも安定的に成長を続けてきた実績があります。S&P500連動型のインデックスファンドは米国の経済成長と一緒に、資産を増やしてきたわけです。
多くの投資家がS&P500インデックス投資信託を保有したり、自らの投資成績をS&P500のパフォーマンスと比較するのは、こうした理由からです。
1957年に設定されて以来のS&P500の年末終値は、WIKIPEDIA「S&P500」の項目に掲載されていました。
そのデータから、S&P500の推移を図示したのが次のグラフです。
このデータを使って、次節では1年ごとのリターンを、その後では全期間を成長期と停滞期に分けて長期的なパフォーマンスを考察します。
まず年ごとのリターンを分析し、過去に暴落のあった年について考察します。
S&P500が設定された1957年と、昨年(2023年)の終値は以下の通り。
年 | 年末終値 |
1957 | 39.99 |
2023 | 4,769.83 |
S&P500指数は、66年かけて119倍の成長を遂げました。
平均の年率リターンは、相乗平均で算出します。
平均の年率リターン = [(2023年の終値÷1957年の終値)^(1/(2023-1957))-1]×100% = 7.51%
S&P500の成長率が平均で年率7%程度という数字は、覚えておくととても便利です。
これは、時期ごとに浮き沈みはあるけれど、何も考えずにインデックスファンドを保有するだけで7%の年率リターンが期待できることを意味しています。
新しい投資を検討する際に、7%を超えるリターンを期待できるかどうかを判断基準とすることは、理にかなっていると思います。リスクが大きい投資の場合、7%を優に超えるリターンが期待できる投資でなければ、魅力がある投資とは言えません。
年ごとのリターンは、次の式で計算できます。
年率リターン(%) = (その年の終値÷前年末の終値 -1)×100
計算したリターンの度数分布が次図です。
横軸の数字を [0,5) のような書き方をしていますが、これは 0≦リターン(%)<5 だった年が 7 回あった、という意味です。
前項では相乗平均で1957年から2023年までの平均年率リターンを計算しましたが、試しに年率リターンの加重平均(普通の平均)を計算すると、8.85% と少し良い結果になりました。
分布を見ると、平均の 7.51~8.85% よりもリターンが良い年が多い。
実際、分布の中央値は 11.49% です。大きく下落した年が平均を押し下げてしまっていることがわかります。
次の図は、1958年から2023年までの、年ごとのリターンを時系列で図示したものです。
1957年以来、年間で20%程度かそれ以上の下落があった年は、4回あったことが分かります。
2022年はインフレ退治の米政策金利上昇とともに株のパフォーマンスが悪かった年でしたが、S&P500史上で4番目に悪い年でした。
年 | 下落幅 |
1974 | 29.7% |
2002 | 23.4% |
2008 | 38.5% |
2022 | 19.4% |
2002年は23.4%下落した年ですが、その前の2001、2002年も連続して10%ほどの下落を記録しています。
このような連続して大きく下落した期間を調べると、前の表の4つの年に対応していました。まとめると次の表のようになります。表中の下落幅は、期間全体の下げ幅を表しています。
期間 | 下落幅 | |
1973-1974 | 41.9% | オイルショック |
2000-2002 | 40.1% | ドットコム・バブル崩壊 |
2008 | 38.5% | リーマンショック |
2022 | 19.4% | コロナ後のインフレと米政策金利上昇 |
65年間の間に 約40% の大幅下落が3回もあったというのは怖い結果です。
そして、それを乗り越えて成長を続ける米経済とS&P500の力強い姿は、インデックス投資を強く肯定する根拠です。
ここからは、もっと長いスパンでS&P500を成長期と停滞期に分けて分析し、これまでのS&P500のパフォーマンスを考察します。
S&P500は、設定以来、いつも順調に成長してきたわけではありません。
順調に成長した好景気の時期もあれば、ドットコム・バブル崩壊やリーマンショックのような景気後退期もありました。実際、2002年と2008年はチャートに顕著な「谷」を形成しています。
ここでは、S&P500の歴史を①高値を更新し続けた成長期と ②下落しはじめてから再び最高値を更新する前後までの停滞期に分けて考察します。
次図に示すように、3つの成長期と2つの停滞期に分けることができます。
2022年は約20%下落した年ですが、2023年は下落が続くことなく、プラスで終わりました。
このあとのS&P500の推移がまだわからないため、ここでの長期トレンドの解析は2021年までに限って行います。
S&P500の3つの成長期と2つの停滞期の、それぞれのパフォーマンスを次表にまとめます。
計算した項目は、それぞれ期間の年数、期間全体のリターン(%)、1年、5年、10年あたりのリターン(%)、それに2倍になるのにかかった(またはかかるはずだった)年数です。
リターン(%) | ||||||
年 | 期間年数 | 期間全体 | 年率 | 5年 | 10年 | 2倍になる年数 |
1958-1968 | 11 | 159.7% | 9.1% | 54.3% | 138.1% | 8.0 |
1969-1979 | 11 | 3.9% | 0.4% | 1.8% | 3.6% | 197.9 |
1980-1999 | 20 | 1261.2% | 13.9% | 92.1% | 268.9% | 5.3 |
2000-2012 | 13 | -2.9% | -0.2% | -1.1% | -2.3% | ― |
2013-2021 | 9 | 234.2% | 14.3% | 95.5% | 282.1% | 5.2 |
※ 停滞期についても計算結果を載せていますが、ほとんど成長がないように停滞期を選んでいる以上、停滞期についてリターンや「2倍になる年数」を計算していることに意味はありません。
この表でわかることは、S&P500は、
ということです。
もうひとつ注目すべき点は、
あれだけ大きな金融ショックが2回あった時期ですら、停滞期は12年で済み、早急に復活したというのは驚くに値する成長性だと思います。
S&P500の1957年~2023年のパフォーマンスを分析しました。
本ブログでは、「日、米、世界の株価指数の過去のパフォーマンスを比較」という記事も書きました。合わせて読んでいただけると嬉しいです!
インデックス投資は、これから投資を始める初心者の方にはとくにお薦めです。
これから投資を始める皆さんに参考になればと思い、「初心者でも簡単に始められる投資方法:インデックスファンドで賢く投資!」を書きました。ぜひあわせてお読みください!
平均成長率が7%程度だということやチャートの浮き沈みなど、もともと知っていたことも多かったです。
けれども、実際に分析してみたことで、新しい発見も多くあったし、なにより面白かったです。
今後S&P500がどのように推移するかは、残念ながら過去を見ているだけではわからない。。。
本記事を書きながら、2010年代からの成長期はそろそろ終わるのかな、2022年の下落は停滞期がはじまるサインだろうか、などと思いました。
けれども、1980年代の成長期は20年も続きました。それを思うと現在の米経済も、このままもう10年間成長期が続くかもしれないとも思います。
1987年のブラックマンデーは、もの凄い恐怖心を搔き立てたのだと伝わっています。たとえばピーター・リンチの本を読むと、伝説のファンドマネージャーが非常に苦しい心理状況に追いやられたことが書かれています。けれども、現在から見返すチャートでは、ブラックマンデーの痕跡はほとんど残っていません。そう思うと、苦しかった2022年の20%下落も、10年後に見るチャートの中ではほんの小さい窪みにすぎない可能性もある。
というか、そうならいいですね。